リレーエッセイ

ゼミ探訪「野間ゼミ紹介」

野間 幹晴 准教授

少人数ゼミは本プログラムの特色であり、学生は、2年間必ずどこかのゼミに所属します。ゼミの規模は、通常では5-6人です。ゼミは毎週月曜日に行われ、学生の問題意識を深めるために文献を輪読したり自身の学位論文研究について報告した上で、ゼミ教員や他のメンバーと活発な議論を重ねながら、 最終的に学位論文を仕上げていきます。

2016年10月04日

野間ゼミには、財務会計、企業価値評価、コーポレートファイナンスなどをテーマとして、修士論文を執筆するゼミテン(一橋大学では、ゼミ生のことをゼミテンと呼びます)が所属しています。

 具体的には、投資行動や配当政策と企業価値、経営者による会計情報のコントロール、会計情報と監査、国際移転価格、業績予想と株価、経営者や株主構成などのコーポレートガバナンスと企業価値、R&Dや特許情報と企業価値、リストラクチャリングやM&A等の企業再編と企業価値、多角化と企業価値などを実証的に研究します。

 修士論文を書き終えるまでには、修士論文で取り組むテーマを選定し、先行研究を読んだうえで、仮説を構築し、リサーチデザインを決定するなどの過程があります。こうした過程で最も重要なことは、なぜそのテーマで修士論文に取り組むのかという問題意識を鮮明にすることです。問題意識を明確にすることによって、その論文の独自性が磨かれます。

50bee8b2b3e2d8db0cc8695022cfb640-300x225.jpg ここに、本プログラムで修士論文の執筆が修了要件としてされている意味があります。本プログラムの学生は、約10年の実務経験のある社会人であり、本プログラムに入学するまで、多くの学生は先行研究を読んだ経験が乏しいのが現実です。先行研究の大半は、米国の資本市場や米国企業を対象として英語で書かれている文献であり、理解するのは容易ではありません。それにもかかわらず、多くの学生が、問題意識がユニークであると同時に、独自性の高い修士論文を執筆して修了します。

 なぜならば、本プログラムの学生は勤務する会社や部門など、そのバックグラウンドはそれぞれ異なるものの、資本市場に関連する業務に携わっているという点で共通しているからです。M&Aを一例に挙げると、買収あるいは売却経験のある事業会社の方、ファイナンシャルアドバイザリーとしての経験がある方、銀行としてローンを提供した方、上場企業のM&Aの公表に対して企業価値評価を行った経験のあるアナリストやファンドマネージャーが在籍しています。

066084cd56b50b00959d73e0e74ce181-300x165.jpg こうした日本の金融市場の実務について知見をもつ学生がゼミで議論することによって、日本市場の特異な点が明らかになり、先行研究とは異なる独自性が浮き彫りになります。米国の先行研究では企業が増資を発表すると、株価が下がることが示されています。しかし、2000年代半ばの日本企業を対象に分析すると、株価が上昇することが確認されます。こうした点に対して疑問を持ち、なぜそうした現象が発生したのかを考えるうえで、日本の資本市場の現実を知っている学生同士の議論が有用です。例えば、ある学生が増資の公表後に株価が上昇するというエビデンスを提示した後に、他の学生が財務危機に直面していた企業が救済された可能性があるのではないかという解釈を提示したことがあります。まさに、日本の現実を知っているゼミテンが集まっているが故に、可能となるディスカッションです。

 つまり、本プログラムでのゼミは、教員とゼミテンによる知識創造の場ということができます。すなわち、先行研究という暗黙知と、日本市場や日本企業の現実についての暗黙知とを化学反応させることで、新たな知識を創造します。

 こうした知識創造を行うことが修士論文が修了要件とされている背景だと、私は考えています。そして、このプロセスはさまざまな実務で必要とされることと類似しています。独自性の高い修士論文を執筆することは容易ではないからこそ、知識創造が触発されます。その結果、修了生は、実践的な知識を獲得するだけでなく、新たな知識を創造したことに伴う実力と自信を兼ね備えています。

 本プログラムでの知識創造にジョインされることを楽しみにしています。

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修了式後のパーティーで(2013年3月)
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