リレーエッセイ
横内 大介 准教授
2015年09月15日
今回のリレーエッセイのテーマは「担当科目(特に基礎科目)」ということですので、私が担当しているFSの基礎科目「金融データ分析の基礎」を題材に、徒然なるままにPCに向かいたいと思います。
この科目では計量経済学やファイナンス理論の実証分析に必要な「統計」の基礎を学習します。この「統計」という言葉ですが、MBAコースなどで学習の対象となった途端、データを数字の並びとみなして数学の枠組みを用いて推論を行う学問である統計学(数理統計学)と同一視されてしまうことがあります。もちろん、「統計」の目的を達成するために「統計学」の知識を利用することもありますが、それはあくまでもこれは「統計」の持つ一側面に過ぎません。残念ながらこの一側面だけに焦点が当たってしまい、「統計」は数学嫌いの学生からよく敬遠されているのが現状です。
この「統計」という言葉自身は数学の有無に関係なく普段の生活でも頻繁に使われています。ちょうどNHKのニュースを聞きながらこのエッセイの原稿を書いているのですが、早速「統計を取る」とか「統計によると」という言葉がテレビから流れてきました。さすがNHK!国民のための放送局です。私の原稿を助けてくれるとは、伊達に私から高い受信料を取っていません(笑)
注意してニュースの内容を聞いていると、この「統計をとる」というフレーズは『観測対象のデータを集めて平均のような代表値やグラフを用いて要約する』という意味で、また「統計によれば」というフレーズは、『説明対象に関するデータの要約によれば』という意味で使われています。つまり、「統計」という言葉が『観測対象に関するデータの要約』という意味で使われていることがわかります。
私が担当する講義である「金融データ分析の基礎」で学ぶ「統計」も、先に説明したこの一般的な意味の「統計」と同じことを意味しています。金融戦略・経営財務コースの目的から、観測対象を金融に関する現象に絞りそのデータの要約方法を学んでいるに過ぎません。しかも要約方法はグラフであったり、図であったりと必ずしも数学を使うとは限りません。そして、その数学でさえもあくまで要約のための道具にすぎませんから、高校や大学の数学の学習のように定理を覚えて当てはめるといった作業は不要ですし、ほとんどのことは鉛筆で手を動かすことなくコンピュータが自動的に計算してくれます。言い換えれば、この講義は『データという材料をコンピュータという道具を使って料理するためのレシピを教える料理教室』というわけです。
もちろん、レシピと一口にいっても、とてもまずい料理になるのであれば覚えるに値しません。しかしながら、この授業で扱うレシピは、ファイナンスや経済といった分野はもちろんのこと、他の分野でも実務の現場で活用されている実践的な内容ばかりです。たとえば、私は研究活動の一環として、自動車業者のみが参加する中古車市場における個々の中古車の取引価格を予測するAI(人工知能)の開発を行っていますが、このAIにも本講義で扱うレシピとがいくつも組み込まれています。ちなみに、この種の中古者市場では年間700万台の中古車が取引されており、ディーラーや中古車買取業者がお客さんに提示する車の買い取り価格は、常にこの市況を参考にしながら決められています。私が開発しているAIは、実際の取引業者と専門誌の紙面上で対決を行っていますが、最近は人間よりもよい予測を行うようになってきました(下の画像のリンク先を参照)。
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専門誌に掲載された「コンピュータ対人間」の記事
この「金融データ分析の基礎」という学問以外にも、FSでは「データモデリング入門」や「ベイズ統計入門」など、データという材料をおいしく料理する数多くのレシピが用意されています。ご興味を持った皆さん、ぜひFSへ入学し、データを料理してみませんか。
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