リレーエッセイ

ゼミ探訪「宮川ゼミ紹介」

宮川 大介 准教授

少人数ゼミは本プログラムの特色であり、学生は、2年間必ずどこかのゼミに所属します。ゼミの規模は、通常では5-6人です。ゼミは毎週月曜日に行わ れ、学生の問題意識を深めるために文献を輪読したり自身の学位論文研究について報告した上で、ゼミ教員や他のメンバーと活発な議論を重ねながら、 最終的に学位論文を仕上げていきます。

2016年07月25日

今回のリレーエッセイでは、私が担当しているゼミを紹介します。一橋大学では伝統的にゼミが教育活動の中心に位置づけられてきました。以下では、私の担当している修士1年(M1:6名)と2年(M2:5名)のゼミ内容をご紹介することで、ゼミの仕組み・雰囲気・特徴とゼミ生の主な研究テーマをお伝えしたいと思います。

そもそも「ゼミ」とは何でしょうか。私の理解では、教員が少人数の学生と様々な材料を元に特定のテーマについて議論を行うことで理解を深めながら、各メンバー(これは教員も含む)の研究テーマについて意見を交わす場であると思います。最近では、講義の中でもディスカッションを重視する形式を採用しているものがみられますが、ゼミ室(私のゼミは研究室を使っています:写真参照)で教員と学生が膝詰めで議論するという環境は、やはり一般的な講義とは大分異なるものであると思います。

57e8e676e0f4cf8838ef7746dfba2376-300x225.jpg私のゼミでは、M1の春学期から、学位取得の要件として各メンバーが最終的に提出する必要のある「修士論文」のテーマ探しを行います。具体的には、各人の関心を聞いた上で私の方から関連すると思われる基本的な文献や論文を個別に提案し、その内容を報告してもらいます。このステージは(1)自分が持っている漠然とした研究テーマ(に近いもの)が研究論文としてまとまっている状態に触れることで修論執筆のゴールイメージを持つ、(2)自分の研究テーマがどういった(想像を絶するほど膨大な)既存研究の中に位置づけられるのかを感じる、(3)これからおよそ二年間に亘る大学院での生活で文献整理(サーベイといいます)・データ収集・分析・執筆といった複数のステージをクリアしなくてはいけないことを心の底から覚悟してもらう、といった狙いがあります。勿論、この段階で設定したテーマがM1秋学期以降に変化することもありますが、多くの研究テーマはその「根っこ」のところが共通していることが多いため、春学期に経験した事柄が全く無駄になるということはないと思います。

M1春学期で大まかなテーマ設定を行った上で、私のゼミでは、夏季休講期間中の課題を個々のメンバーに設定します。例えば、金融機関による債券投資行動を研究したいという学生には、関連するデータを収集してデータのサマリーや予備的な推定を行うことを指示します。また、企業の価格設定行動に関心がある学生には、具体的な価格データの探索と価格設定に関する理論的な論文のサマリーを要求します。こうした課題の進捗については、夏季休講中に面談を個別に行い、確認するようにしています。

ここまで読んできて、何となくガチガチに管理されていて大変そう、と思った方もいらっしゃると思いますが、この段階では何らかの方針に従って(半ば強制的に)手を動かすことが重要であると私は考えています。業務で多忙を極めている社会人大学院生にとって、最大の敵は「何もせずに時間が過ぎていくこと」です。このため、私としては心を鬼にして、やや無茶と思われるような課題を与え続けることにしています。また、このステージでは、各人が愛着を持てるテーマを見つけることを重視しています。これは、2年間という大学院生活の中で修士論文を執筆するという大変なタスクを終えるためには、とにかく学びたいテーマを選ぶことが重要だと考えているからです。現在のゼミ生も各自のテーマを我が子のように大切に思っていると信じています(ゼミ生の皆さん、そうですよね?)。

続いて、M1秋学期は、夏までに集めたデータや読み込んだ文献に基づいて、具体的な研究案の設計を始めます。秋学期には私が担当している「金融データ分析」のような実証手法を習得するための科目も提供されていますので、出来る限りゼミと講義の両方で実証分析手法に触れて貰えるように努めています。勿論、秋学期もデータ収集と関連研究のサーベイは続きます。毎回のゼミは、通常一名のゼミ生に割り振られており、報告者を囲んでの作戦会議といった雰囲気です。具体的には、ゼミ生によるデータ収集・関連文献サーベイの状況説明を踏まえて、他のメンバーと私からの質問が続き、次回ゼミに向けての課題の指示を私の方から行うというのが一般的な流れです。

ゼミを運営していて大変面白いと感じるのは、学期が進むにつれて私が言おうとした内容をゼミ生が先に言うようになるということです。これは、他のメンバーによる研究に対する意見・提案に関する基本的な姿勢が徐々に身についていくためと思われます。ゼミ参加を通じて論理的な思考を身に付けるということは、まさにこういうことではないかと思います。dc33cb23c3bd77f28352e0566f525e1f-300x169.jpg

私のゼミでは、基本的にM1の終わりまでに分析に耐え得るひとまずのデータセットを集めて、予備的な推定を行うことを義務付けています。このため、M2の春学期は暫定的な推定結果を基にした議論で明らかになったデータの不足や分析手法の不備について、より高度な作戦会議を行うということになります。なお、この際、重要となるのは、自分の研究テーマとは一見すると関係ないように見えるテーマについても、質問・提案を積極的に行うということです。経済学・ファイナンス理論に基づいた論理的な思考とデータに基づく実証的な議論を味方に付ければ、色々なテーマに対して「自由に」思考することが出来るようになります。ゼミを通じてこの楽しみを是非味わって頂きたいと考えています。

M2の夏季から秋学期にかけては、アカデミックな論文の形式にこれまでの成果を「はめ込んでいく」ということになります。これまで行きつ戻りつしながら分析してきた結果を、万人が見て理解できる標準的な形式にまとめるためには、追加的な知識と技術を必要とします。ドラフトの提出と添削を繰り返すことで、そのマナーを身に付けてもらいます。最終的な修士論文の提出は通常M2の年明けに期限が到来しますが、私の気持ちとしては、そこで終わりではなく、公表した論文をさらにブラッシュアップして査読付きの専門ジャーナルに投稿するという気持ちで取り組んでほしいと考えています。一生の宝になるようなまさに「玉稿」を一緒に作り上げていきたいと思います。

こうしたある意味で厳しいゼミの運営方針ではありますが、私のゼミメンバーは皆さんとても明るく、ざっくばらんな方が多いと思います。共通する特徴としては、私が「○○を次回の報告までやってきてくださいね」と言うと、それが相当高いハードルであっても、にっこり笑って「頑張ります」とお返事されるところかもしれません。そのせいか、学期中にもみるみる力を付けていかれるという印象があります。

最後に、ゼミ生の研究テーマを紹介したいと思います。まず、現在のM2以上の学年ですが(図1参照)、一見して明らかなように企業金融/バンキング系のテーマから、資産価格/投資系のテーマまで大変ばらついています。

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<図1:M2以上の修論テーマ>

こうした傾向に対して、現在のM1(図2参照)では、資産価格/投資関連のテーマが減った一方で、広義の企業行動(企業ダイナミクス)を対象とした経済学 的なテーマが増えています。これは、メンバーのバックグラウンドが製造業、商社、運輸などバラエティに富んだ構成になっているためと思われます。金融コー スの開祖である三浦良造先生が何かの折に、「社会人大学院というのは、色々な分野で実務を積んできたバリバリの実務家が、各自のテーマを携えてやってくる ところであり、教員はその多様なリクエストに応える必要がある」と仰っていたことを記憶しています。私のバックグラウンドは経済学・ファイナンスですが、 同分野で用いられている理論的な議論や実証手法を用いることで、こうした多様なテーマに当たり、私自身も学んでいきたいと考えています。

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<図2:現M1の修論テーマ>

以上、私のゼミを題材として、FS金融プログラムにおけるゼミの様子をご紹介してきました。ゼミを通じた論理的かつ自由な思考力の涵養、そして結果をアウトプットする力は一生の財産になると思います。皆さんとゼミでお会いできるのを楽しみにしています。

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