2018年07月30日

活動報告

講義科目「CFOと企業価値」

金融戦略・経営財務プログラムでは、2018年度春学期に講義「CFOと企業価値」(石橋 善一郎非常勤講師)を開講しました。

講義「CFOと企業価値」ではCFOとCFOが率いるCFO組織が企業価値向上に如何に貢献しているかを考えます。日本企業におけるCFOの役割は、経理部門や財務部門のリーダーではあっても、事業管理・業積管理部門のリーダーではないことが一般的です。外資系企業のCFOの役割の根幹には、単に経理部門や財務部門のリーダーであることを超えて、①企業の長期にわたる持続的な成長に向けて戦略を実行し、②企業の短期の利益目標達成に向けて業積管理を行う、の2点があります。外資系企業のCFOと日本企業のCFOの役割の違いはどこから生まれたのでしょうか?グローバル市場において日本企業が成功裏に競争するためには、CFOとCFO組織の役割を見直すべきではないでしょうか?
2018年度は、外資系企業及び日本企業において事業管理を担当されてきた方々にご登壇戴き、彼らの戦略実行・業積管理への取り組みと彼らの「管理会計プロフェッショナル」としてのキャリアについてお伺いしました。


ゲストスピーカー一覧

4月16日 グローバル企業の経営管理 三木晃彦氏(日本IBM株式会社理事、 グローバル・テクノロジー・サービス事業部CFO)
4月23日 企業価値を高めるCFO組織を目指して ~CFO組織の経営管理・経営企画機能を強化すると営業利益率が向上する~ 池側千絵氏(日本ケロッグ合同会社執行役員、経営管理・財務本部長)
4月30日 CFO as a front seat driver 高橋俊一氏(元日本アビオメッド株式会社副社長)
5月7日 CFOと企業価値 橋本勝則氏(デュポン株式会社取締役副社長)
5月14日 What is TOKATSU ? 三木久夫氏(株式会社リクルート経営企画室事業統括部部長 兼 株式会社リクルートホールディングス事業本部事業統括部長 兼 株式会社リクルートキャリア取締役 兼 株式会社リクルートジョブズ取締役)
5月21日 CFOと企業価値 昆政彦氏(スリーエムジャパン株式会社代表取締役副社長執行役員、経済同友会幹事)

 


講演「グローバル企業の経営管理」             2018年4月16日

日本IBM(株)理事、グローバル・テクノロジー・サービス事業部CFO  三木晃彦氏

ゲスト略歴 : 日本IBM(株)に新卒で入社後、米国IBM勤務。日本IBMのPC事業のレノボ社への売却に伴い、レノボ・ジャパン(株)の取締役CFOとして勤務。ピアソン桐原(株)にCFO兼COOとして勤務。日本IBMに再入社し、現在に至る。

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2018年4月16日のゲストスピーカーは、日本IBM株式会社 理事、グローバル・テクノロジー・サービス事業部CFOの三木晃彦氏にご登壇戴きました。三木氏は、本講演において、グローバル企業におけるCFO組織の役割が、「過去の実績値を分析する役割」から、「どうやってビジネスを成長させるかを考え、提言する役割」へ変化していることをお話されました。最初に、四半期の実績値の分析に時間を使うのは2割程度。残りの8割は、これからどうするか、次の四半期にどうやって業積目標を達成するかの検討に使われることを紹介されました。次に、グローバル企業の業積管理プロセスにおいて、CFO組織が「ヘッドライト・オペレーション」に如何に取り組んでいるかを紹介されました。

  1. 年度予算の編成、実行予算、及び月次ターゲットの設定は、CFO組織が行うこと。
  2. 年度予算編成時に、市場情報と年度予算案とのギャップ分析, 及びリスク・シナリオとコンティンジェンシー案の作成を行うこと。
  3. 予算編成後における予算管理プロセスにおいて、「売上予測」が「パイプライン情報」より自動的に週次報告される仕組を構築。予算達成に向けて週次で是正措置を講じていること。
  4. 「ヘッドライト・オペレーション」をグローバル・レベルで行うためには、グローバル本社が全世界の子会社(業種と顧客のマトリックス)のデータを一元管理する体制の構築・運営が必要であること。

第三に、CFO組織の目指す役割として、「Trusted Business Advisor」という役割を紹介されました。「何をするべきか」だけでなく、「どうやってするべきか」を提言できるようになることが大事であると話されました。「Trusted Business Advisor」になるために必要なこととして、以下の7つを挙げられました。 

  1. 会計知識とスキル向上への継続した取組み
  2. ビジネスの理解と目標の共有、そして協業
  3. データに基づくタイムリーな分析と的確な助言の提供
  4. 分析やレポーティングにおけるテクノロジー(ツール)の活用
  5. プロフェッショナル・ネットワークの構築
  6. 常に正しいことを行う

最後に、履修生との質疑応答において、「グローバル企業において、CEOはCFOに何を期待しているのか?」という質問に対して、CEOがCFOに対して有している2つの期待を説明されました。特に、最初の期待が大きいことを強調されました。

  1. 「自分のビジネスを最大化するために、あなたは何をしてくれるのか?」
  2. 「客観的な、独立的な立場で、今のビジネスの状況を教えて欲しい」

講演「企業価値を高めるCFO組織を目指して ~経理財務(ファイナンス)部員を事業部に配置して営業利益率を向上させる~」             2018年4月23日

日本ケロッグ合同会社執行役員、経営管理・財務本部長 池側千絵氏

ゲスト略歴 : 新卒でP&G経理部門に入社。事業部付きファイナンス、日本子会社の利益管理、アジア本社の研究開発費・一般管理費管理、日本と韓国の税務などを経験。日本マクドナルド株式会社でフランチャイズ部門財務部長、レノボ・ジャパンで取締役CFOを歴任。現在に至る。

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2018年4月23日のゲストスピーカーは、日本ケロッグ合同会社執行役員、経営管理・財務本部長の池側千絵様にご登壇戴きました。
最初に池側様が話されたのが、経理・財務(ファイナンス)部門が果たすべき役割についての池側様の問題意識でした。4月1 6日の三木晃彦様の講演で議論されたように、目標利益を達成するために週次や月次での業積管理プロセス(PDCAサイクル)において、経理・財務部門が果たす役割が非常に重要であること。その上で、池側様が関心を持たれたのは、製品やサービスを生産して販売する現場、つまり事業部レベルの日常的な意思決定プロセスにおいて、経理・財務部門が如何なる役割を果たすべきかでした。

この問題意識を持たれたのは、池側様のキャリアにおいて、日本企業との合弁事業に参画したことが始まりでした。日本企業において経理・財務部門が事業部レベルで担う役割が、それまで勤務してきたグローバル企業と著しく異なることに疑問を持ちました。新製品の価格付けや目標原価の設定などの事業部における経営意思決定プロセスに経理・財務部門が関与していない。経理・財務部門が関与できれば、日本企業の営業利益率を上げることができるのではないか? 伊藤レポートによれば、日本企業は外国企業に対して、ROEが相対的に低い。日本企業のROEが低い大きな理由は、営業利益率が低いためです。日本企業における経理・財務部門の役割を変えれば、日本企業の営業利益率を上げて、日本社会の発展に貢献できるのではないか?

この問題意識を検証するために、池側様は日本CFO協会の協力を得て、大規模なCFOサーベイを実施されました。

サーベイの結果、過去3年間に営業利益率が上がった企業では、以下の3つの機能に関して、 CFO組織が主管・関与している割合が高いことが判明しました。

  1. 商品・サービス・店舖などの損益実績分析による運営改善・継続可否判断・提案
  2. 新商品・サービスの原価目標・価格設定提案
  3. 宣伝広告費・販売促進費などの投資判断・進捗管理・効果測定

最後に、「経理財務(ファイナンス)部員がいかに事業部の利益率向上に貢献するか」というテーマで、池側様のこれまでのキャリアにおける取り組みを紹介されました。

  1. ファイナンス担当者をクロスファンクショナル・チームのメンバーとして、プロジェクトの初期段階から参加させる。
  2. 新製品開発プロジェクトにおいて、3つの視点(①小さな視点:商品そのものの規格を目標利益が出るように設定、②中くらいの視点:プロジェクトの投資回収、③大きな視点:会社全体に与える影響)で考える。

講演「CFOと企業価値」             2018年5月7日

デュポン株式会社 取締役副社長、橋本勝則氏

ゲスト略歴 : YKK(株)経理部に新卒で入社後、英国子会社勤務。34歳でデュポン株式会社入社。 米国本社への赴任や米国大学でのMBA取得を経て、日本法人の財務責任者に就任。数多くの日本企業との合弁会社の経営に携わり、現在に至る。


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2018年5月7日のゲストスピーカーは、デュポン株式会社取締役副社長の橋本勝則氏にご登壇戴きました。
最初に、橋本様はグローバル企業におけるCFOの役割について話されました。経理の専門性をもって決算をまとめるのはコントローラー、資金の調達・運用はトレジャラー。CFOはその上位の職務としてCEOに次ぐNo.2としての役割です。
CFOの重要な課題として、以下を紹介されました。
1. 長期的な会社の方向性と短期的な業績予想に対する責任を負う、
2. 事業ポートフォリオマネジメントによる事業買収・売却・提携の判断等、全社的な舵取りの責任を負う。
3. 資源配分の責任。特に、キャッシュ・マネジメントは本社に集中させることが大事。
4. グローバル企業の事業管理を行うために必要なインフラ、特にERPシステムを構築、運用する。
次に、橋本様はグローバル企業から見た、日本企業の4つの問題点を説明されました。
第一に、経理財務部門の問題点。
1. 経理の枠からはみ出さない,
2. 財務は、資金調達・運用に特化、
3. タックスプランは経理の片手間、
4. 内部監査はベテランの最後のポジション、
5. 経理・財務内のローテーションが少ない
第二に、経営企画部門の問題点。
1. 基礎知識が弱い、
2. 事業部長の下請けの集計屋、
3. 本流の営業・技術や研究開発に 対して亜流扱い。力関係で負けている
第三に、リーダーの問題点。
1. 様々な経験を経ないで社長や事業部長としてのリーダーになる、
2. 参謀の必要性を知らない、数字で語れないビジネスリーダー、
3. グループ会社のガバナンス、
4. コーポレートとしての横串がさせない
第四に、マーケットの問題点
1. 業績予想に対するコミットメント(短期)、
2. 会社の将来に対するけん制作用が無い(中長期)
履修者との質疑応答において、上記の日本企業の問題点への取り組みとして、(経理財務部門ではなく)経営企画部門に、本社と事業部における事業管理に関する権限と責任を与えて、グローバル企業におけるCFO組織(コントローラー組織)と同様な職能部門に変えることを提案されました。

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講演「CFOと企業価値」             2018年5月21日

スリーエムジャパン株式会社代表取締役副社長執行役員 昆政彦氏

ゲスト略歴 : 三菱電線工業株式会社財務部に入社。GE日本法人へ転職。米国本社勤務を経て、GE横河メディカルシステムCFOに就任。株式会社ファーストリテイリング執行役員を経て、GEキャピタルリーシング株式会社執行役員CFO2006年に住友スリーエム株式会社に執行役員CFOとして入社。現在に至る。

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2018年5月21日のゲストスピーカーは、スリーエムジャパン株式会社代表取締役副社長執行役員の昆政彦氏にご登壇戴きました。

昆様は、本講演において、CFO及び経理財務部門に要求される、3つのスキル・能力について話されました。
CFO及び経理財務部門に要求される、一つ目のスキル・能力は、「社長と同じ目線に立つ」。

  1. 社長には社長にしか見えないものを見る力があるから社長であること。社長と同じ目線に立つためにマクロ経済理解力、市場透視眼力(見えないものを見る力)が必要であること。
  2. 社長と同じ目線に立つために、戦略と目標数字の関連結合能力が必要であること。具体的には、「戦略・五カ年計画・年度予算・予測・実績」のモニタリングプロセスを一体化し、「予予(予算・予測)分析」(「予実(予算・実績)分析」ではない)を基にモニタリングプロセスを回すこと。

CFO及び経理財務部門に要求される、二つ目のスキル・能力は、「市場と同じ目線に立つ」。

  1. ファイナンスと経営管理の責任者として、目標ROEの設定と展開力が重要であること。本来、業積目標の指標としては、ROEではなく、ROICを使用すべきこと。
  2. CFOの役割は、金融市場からの目標ROEの期待を目標利益の形で予算化し、事業部の予測とのギャップを埋めること。事業部長に目標ROEを理解させようとするのは、誤ったアプローチであること。
  3. 市場とのコミュニケーション能力が重要であり、社会価値との関連性に注目すべきこと。

CFO及び経理財務部門に要求される、三つ目のスキル・能力は、「戦略実行目線に立つ」。

  1. グローバル市場で経理・財務部門の戦略実行能力が問われていること。「スコアーキーパー」から「バリュー・インテグレーター」へ。「バリュー・インテグレーター」から「パーフォーマンス・アクセラレイター」への進化。「パーフォーマンス・アクセラレイター」と見なされる経理・財務部門は、収益性・経済情勢分析、販売価格の決定、需要予測、製品・サービスの開発、M&Aの分析などに関わっていること。
  2. スリーエムのCFO組織においては、①ビジネスサポート(「ビジネス・カウンセル」)と②コントローラーシップ(経理と財務)の2つの機能がCFO組織の両輪であること。「ビジネス・カウンセル」は、事業部毎にアナリストを配置しており、「予算配分」、「目標達成への対策検討協力」、「改善策の実行支援」、「主要業績のモニタリング」を担当していること。
  3. 「フォワードルッキング会計手法」が主流であり、予測ベースに活動すること。財務会計PLではなく、管理会計PLで業績管理を行うこと。

最後に、GE米国本社に赴任した際の事業管理(FP&A)担当者としての経験を披露して戴きました。

  1. 米国本社赴任後、ビジネスパートナーである事業部長に対して初めて書いた課題を指摘した報告書を目の前で破り捨てられたこと。上司に報告したが、やむを得ないと言われたこと。
  2. 米国本社で求められていたのは、レポートを書いて課題を説明することではなく、パートナーとして課題解決に如何に貢献するかであったこと。
  3. 「Accountability」という言葉は、「説明責任」と訳されることが多いが、実は「執行責任」という意味もあること。

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