修了生の活躍
明治大学商学部
専任講師
奈良 沙織さん
2006年3月修了
大学の経済学部を卒業して、信託銀行に就職しました。信託銀行では日本株のアナリスト業務を担当し、1日2~3件の企業を取材し、翌日の朝に取材レポートを提出するというのが基本的な業務内容でした。
当時、私がアナリストとして担当していた企業を見ていて、「なぜ?」と疑問に思ったことがありました。それは、業績の良い企業の株価が低迷する一方で、業績の悪い割安株と呼ばれる企業の株価ばかりが上昇するという現象です。企業の価値が適切に株価に反映されない現実を目の当たりにし、この理由は何なのか、マーケットは企業の何を評価しているのか、自分なりの解を得たいという強い思いが湧き上がってきました。そこで、企業価値評価やファイナンスについてより深く学びたいと思い、大学院へ通うことを考えました。
FSを選んだ理由は、ファイナンスを学ぶ上で一流の教授陣がそろっていること、一橋大学という伝統ある校名とアカデミックなイメージに惹かれたことと、大学院の場所が勤務先の大手町から近かったことです。
私が入学したのは2004年のことですが、実は1年前の2003年度にも受験し、そのときは不合格となってしまいました。それでも学びたいという気持ちは衰えることはありませんでした。1回目の受験後、業務の一環として機関投資家向けの資産運用に関する書籍の執筆に携わり、その中の1章を執筆しました。この経験が企業価値評価や株式市場の分析についてより深く考える契機となり、翌年の合格につながったと思います。
入学前のイメージ以上に数学を使う機会が多く、文系だった私にとっては、数式を使って様々な事象を説明する作業は非常に難しく感じました。また例え基礎科目であっても、一流の先生からは高いボールが飛んできます。その「基礎」で要求されるレベルが想像よりはるかに高く、これも一流のMBAたる所以だと思いました。FSは"知の体育会系"だと先生方がよくおっしゃっていましたが、正しくそんな言葉が似合う環境です。しかし、FSで鍛えられたおかげでその後の仕事の幅が広がり、また選択肢も増えたように思います。
FSではコーポレートファイナンスや企業価値分析が専門の中野誠先生(現商学研究科教授)に指導していただきました。中野先生の教え方で印象的だったのは、学生に簡単に"答え"を与えないことです。すぐに答えを与える方が教える側にとっては効率的なのかもしれませんが、中野先生は「もっと良い研究にするには、このようなことも検討するといいのではないか」というように、学生に"気づき"を与え、思考をさらに高みに導くような指導をしてくださいました。
さらに、中野先生と共同でゼミを担当してくださった佐山展生先生からは、実務で数多くのM&Aを経験された方ならではの鋭い指摘・コメントをいただきました。FSでは日常の業務で抱いた疑問や問題点を研究対象としている学生も少なくありません。そのような学生にとり、研究者の先生と実務を経験された先生の両方の指導を受けられることは大変魅力的だと思います。
FSの先生方の指導に感銘を受け、私も会計やファイナンスの知識をさらに深めながら、企業を適切に評価できる人材の育成に携わりたいと考えるようになりました。今は明治大学で企業評価論の講義を担当しています。
講義やゼミでは、FSの先生方をはじめとするこれまでお世話になった多くの先生方の教え方を参考にしています。受験勉強のやり方に慣れた学生は自分で考え直すプロセスを飛ばして、とにかく"答え"を求めがちです。しかし、私も中野先生を見習って、すぐに答えを与えず考えるためのポイントを指摘するよう心がけています。
FSで学んだ経験が大きく影響し、こうして研究者としてのキャリアを踏み出すことができました。学生には与えられたことをこなすだけではなく、自ら考え新しい価値を創造できる人物になってほしいと願いながら接しています。
ゼミ生と東京証券取引所を見学(奈良さんは後列右から2人目)
FSに入学したときは社会人4年目で、それほど責任あるポジションで業務を遂行していたわけではありませんでしたが、同期生の多くはある程度のキャリアを持っていて仕事に対する意識の高い人が多く、彼らを通じて他社や他業種の話を聞くのはとても刺激的でした。
FSを修了して8年以上経ちますが、卒業後もバーベキューや忘年会などの場を設け、近況を報告し合うことがあります。学生だったときは若手社員だった人が今では経営の一角を担っているなど、皆ステップアップしています。アカデミックの世界にいる自分にとって、さまざまな分野のビジネスの第一線で活躍する人とざっくばらんに語り合える機会は本当に貴重なものです。こうしたFSで培った人脈を独り占めするのはもったいないので、同期生に授業にゲストスピーカーとして来てもらい、学生に仕事の話をしてもらうような機会も設けています。
私の同期は9割が男性で、女性は私を含めて4名でした。私以外の3名は金融機関、メーカー勤務と学生が1人ずつで、年齢は20代から30代でした。
FSでの教員の指導は性別や年齢、肩書き等で区別するものではなく、自由な気風が自分にとって心地よかったことを覚えています。同期の中では私が最も若く周りは年上の男性ばかりでしたが、「それこうじゃない?」「私はこう思う」と活発に議論できる雰囲気で、同期も仲間として対等に向き合ってくれました。
FSの特徴の一つに、修士論文の提出があります。日本のMBAの中には修士論文の提出が義務付けられていないところもありますので、修了のハードルは少し高めです。しかし、修士論文作成の過程では多くの文献を読んだり分析を行ったりするので、私の周りでは「一橋のMBAは教授陣の質が高く、修論指導も厳しいので、修了生のレベルは高い」と非常に良い評価がなされています。
今振り返ると、入学から修了までは「走り続けた2年間」でした。授業の難しさや、仕事と勉強を両立させるための時間のやり繰りは、想定していたよりずっと大変でした。しかし、その分、修了したときの達成感は非常に大きかったことを今でも時々思い出します。
日々の仕事においても常に問題意識を持ち、「なぜ?」という疑問を大切にしながら、それを追及する姿勢は重要です。また、困難を乗り越え出来ることが増えると、自分らしい人生を実現できるチャンスが増えると思います。「なぜ?」を追及することや自分を成長させることについて、主体的に取り組んでいると良い結果が自然とついてくるのではないでしょうか? FSへ行くかどうか悩んでいるとしたら、その時間がもったいない。行動あるのみです。
※本記事の内容、肩書き等は2014年10月当時のものです。
過去のゲストスピーカーはこちら