修了生の活躍
総合商社勤務
福本 裕司さん
2010年3月修了
2000年に総合商社に入社し、2012年から英国・ロンドンをベースに金属や鉱物資源のマーケティング・トレーディングを行いつつ、同分野における投資機会の発掘・検討を行っています。12年間の東京勤務でも資源関連の投資先企業の施策運営や管理業務、トレーディングを行ってきました。
2008年度のFSへの入学から2010年3月修了の間は、中国を中心とする新興国の急成長に伴う資源需要拡大期の真っただ中で、世界中で資源確保に向けた新規開発や大型M&Aが活発な時期でした。自分自身も30歳を過ぎ、組織、業務に対する提案・推進・課題解決といったいわゆるリーダーシップが求められる時期に差し掛かった頃でした。
少々漠然としますが、会社には金融や経営に触れる「現場」があり「実務」があります。それらは机上で学ぶ「ケース」よりももっと生々しくて複雑な事情を孕んだ事象だと思います。そうした現場・実務経験の積み上げによるキャリア形成が軸にある一方で、日々経験する事象を一般化して捉え、「○○学」や「○○理論」といった切り口で俯瞰したり、掘り下げたりすることができれば、経験を知恵や知見に昇華させられるのではないかと思い、学んでみようと思いました。
FSを選んだのは、修了したOBの方からの勧めが大きな理由です。実際、他の学校とは比較しませんでした。よって入学してからの気付きですが、個々のバックグラウンドを理解し実務への適用・活用を真に考えてくれる先生方の指導がとても良かったと思っています。また学生側も、「何となくMBA」ではなく、実務上の課題解決の為の具体的ツールを手にいれたいという意識が高い方々が多かったと感じます。
FSでは「コーポレートファイナンス」「M&Aと企業価値評価」「企業価値向上論」等の経営財務系科目と「ファイナンス理論」「金融データ分析」「金融数理」等の計量系科目をバランス良く学びました。法務コースの講義も受講可能でしたので「M&A法務」等も学びました。経営財務系科目は実務経験からもなじみやすい分野でしたが、計量系科目については全くの素人でしたのでとても苦労しました。
修士論文については指導教官に幾度も相談させていただきました。実務上で認識している課題には計量系アプローチが適するのではないかとのアドバイスをいただき、「多変量自己回帰モデル(VAR model)を用いた資源価格と鉱工業生産活動の連動分析」というテーマを設定し、マーケット価格の変動を長期的に説明しうる要因の存在とその影響力を計量的に計測することを試みました。
授業やゼミでは、先生方が実務家側の課題認識や実態を的確に理解・把握されているため、実例を交えた実践的な理論をご指導いただけたと思います。
知識・理解力という個人差の問題もあったかと思いますが、特に計量系科目は相当ハイレベルだと思います。私にとっては付いていくのがやっとで、内容によっては付いていけなかったものもありました。
FSの中ではよくある風景となっていましたが、授業後、理解できている学生が理解できなかった学生に対して補習を開催してくれていたことを印象深く覚えています。私は理解できなかった側にいる事が多かったので、この機会がたいへんありがたく、通称「3限」のお世話になりました(大学院の授業は2時限目まで)。
「人脈」とか「ネットワーク」といったニュアンスとはちょっと違う、「仲間」を得られたことが大きな喜びです。業種も職種も世代も違う同期生が集い、共通の授業や宿題に頭を抱え、また各々の研究計画や論文進捗を披露して共有していくことで生まれた連帯感は格別です。修了した今でも定期的に集まるのが楽しみですし、同期生の活躍を目の当たりにするのはたいへん刺激になります。ちなみに、現在ロンドンには私以外にもFS修了生がいらっしゃるので、プチ同窓会を不定期開催しています。
会社からのメッセージはシンプルで「規定業務時間以外の時間は個人のものゆえ、その活動は個人が設計しなさい」というもの。出てくる答えもシンプルで「時間は自分で作るしかない」ということでした。入学するまでは上手くやれるか不安もありましたが、始まってしまえば何とかするしかないですし、何とかなりました。
具体的には、業務を切り上げて講義に出席し、講義を終えた21時以降は宿題をするか終えるべき業務に戻るかを決めるのみです。「17時30分以降彼はいないが、翌朝までには反応がある」ことを社内外で広く認識してもらうことが大切と思います。
幸い家族からも会社からも反対はありませんでした。むしろ上司・同僚からは大いに応援され、励まされました。
入学するまでは、高度な授業やそれを理解するための基礎知識、参加する方々のバックグラウンド等、不安はありました。またそこで得られるものに意義があるのかといった疑問も少なからずありました。しかし入学・修了してからの気付きは、学術的知識の理解のみならず、みんなが実務上の経験を持ち寄って議論し貢献することの重要性でした。教科書から学ぶだけではない、議論と知の集積に立ち会い身を浸すことこそがFSで学ぶ意義なのだと思います。
「知力を鍛え、議論に参加し、人と組織に作用する。(気合と根性もやっぱり大事!)」
私がFSで見出したこの学びは、国や業種や会社に拠らず、どこで働くにせよ大切な価値観になっています。
危ぶむなかれ
危ぶめば道はなし
(中略)
迷わず行けよ
行けばわかるさ
読者の方々に何か刺さるメッセージをと考えていたら、この有名な詩が思い浮かびました。選択には様々な不安がよぎるものと思いますが、何を選択してもそこから何か学びを得る気概がその成否を分けると思います。
※本記事の内容、肩書き等は2014年10月当時のものです。
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