修了生の活躍

クラスメイトの投資家に刺激を受け、「上場後」を語れる審査担当者に

東京証券取引所

上場推進部 課長

宇壽山 図南(うずやま となみ)さん

2010年3月修了

FSで学ぼうと考えた理由は?

これまでの業務経験を踏まえて証券市場やIPO(新規株式公開)を見つめなおす

株式会社東京証券取引所(東証)には1997年に入社し、2002年から上場審査部という部署で、東証に上場申請をした会社の審査業務をしていました。大学院へ行きたいと思ったのは、その上場審査部で5年目を迎えた2007年の初め頃です。
私が上場審査部に異動した2002年以降、国内のIPOの件数は右肩上がりで増えていました。私は上場審査部の審査担当者という立場で、約5年半のあいだに上場を目指す会社(約60社)と向き合ってきましたが、そうした経験のなかで、証券市場全体の仕組みや国内外のIPOの比較など、あらためて体系的に学び、深く知りたいと考えました。また、当時、年齢も30代前半ということで、今がそのタイミングだと考えていました。

業界内でも著名な教授が在籍

数ある大学院の中から、一橋大学大学院国際企業戦略研究科(FS)を選んだ一番の理由は、充実した教授陣です。佐山先生、服部先生、本多先生、野間先生といった、M&Aやコーポレートファイナンスの分野で著名な方々が教鞭をとっていて、実務経験と学術的な視点のバランスがよく、それぞれに通じた方に学べることが決め手となりました。
もうひとつの理由は、学生の規模的にもちょうどよかったというのが挙げられます。学生数が1学年40人で、クラスメイト全員と常に話をすることができましたし、また過去に東証でFSに通った方がいて、その方からもFSの授業内容や雰囲気がよいことなどを聞いていたのも大きかったです。

FSで学んで苦労したこと、印象に残っていることは?

仕事と学業の両立に苦戦

uzuyama2.jpg一番苦労したことは、やはり仕事と学業の両立です。FSに合格するのとほぼ同じタイミング(2007年11月頃)で異動が決まり、上場審査部から別の部署に移りました。特に翌年4月にFSに入学後、1学期が終了する7月までは、ちょうど業務が繁忙な時期と重なり、学業との両立が大変でした。いまでもそのとき自分が何をやっていたのか、あまり詳しく思い出せないくらいです。
当時の1日の生活は、上司の理解もあり1限の授業開始(18時20分)になんとかギリギリ間に合うように会社を出て授業に出席し、2限が終わったあとにいったん会社に戻って再び仕事をして、帰宅するのは深夜12時頃。そのあと休憩をはさんで深夜1時頃から宿題を始めて、朝方4時ぐらいまで取り組み、必ず数時間は睡眠をとる。翌朝は7時頃に起きて急いで出勤。前日に宿題が終わらなかった場合、会社の昼休み時間にやって、なんとかその日の授業に間に合わせる。当然のことながら平日だけでは学習時間が足りないので、土日もほぼ勉強に費やしていました。FS入学後の最初の4か月はこのような生活で、精神的にも、体力的にもしんどかった印象しかありませんでした。
また1年目の夏休み中の2008年9月にはリーマン・ショックが起きて、業務で様々な対応に追われて大変慌ただしかったのですが、1学期の経験を活かし、2学期以降はFSの勉強を、ある程度メリハリをつけてできるようになりました。

仲間に心配されるも、なんとか論文を提出

2年目は修士論文の作成にも大変苦労しました。データ集めや、データを読み込むのにすごく時間がかかりました。2学期になると、周りのクラスメイトはある程度修士論文の形ができていて、自分だけが取り残されたような状況でした。統計ソフトがうまく使いこなせず、望む結果も出なかったりして、修士論文の途中経過をゼミで発表したときには、先生やクラスメイトたちにこてんぱんにされたこともありました。ほかのクラスメイトから「宇壽山さんは、本当に卒業できるのか。期限までに論文を提出できるのか」とかなり心配されていました。そのような状況のなかで担当教官の野間先生が親身になって相談に乗ってくださり、またクラスメイトのサポートもあり、そして年末年始に毎日必死に論文を書いて、なんとか1月末の提出に間に合わせ無事に修了することができました。野間先生やそのときのクラスメイトには本当に心から感謝しています。

ゼミでの「鋭い質問」に刺激

大学院で学んだことでは、ゼミの時間が一番充実していました。いろいろな分野の方が集まって、思い思いのテーマで研究内容を発表します。私の発表に対しても、同じ仕事をしている方であれば絶対にしないような意外な鋭い質問がバンバン飛んでくるので、たくさんの気づきを与えられたことが非常に印象的でした。
授業では服部先生のM&Aの講義や、佐山先生がお呼びする実務家や経営者によるお話など、FSならではの広く深い実践的な知識や考え方を学ぶことができました。

修士論文のテーマは?

担当教官のアドバイスでテーマを変更

入学時に提出した研究計画書では、IPOの企業業績への効果をテーマに掲げましたが、実際の論文のテーマはIPOとベンチャーキャピタル(VC)の関係にしました。企業がIPOする際には、証券会社や監査法人と違って、VCの出資は上場制度上必ずしも必要ではありません。そのためVCは東証と直接的な関係を持たないので、私自身も彼らとの接点はほとんどありませんでした。
しかし、野間先生から「アメリカではVCの投資がIPOの成功に大きな役割を果たす例が多い。VCを取り上げてみてはどうか」という示唆があり、私としても非常に興味深かったので、VCとの関係を論文のテーマとしました。

家族からの協力やサポートは?

妻が育児休業を延長して仕事と学業をサポート

妻もフルタイムで仕事をしていたのですが、ちょうどFSに入学する直前の3月に出産を迎え、育児休業に入りました。本来であれば1年程度休むところを、私の大学院の勉強の大変さを見て、育児休業を1年8カ月と卒業の直前まで延長してくれました。
本当であれば2人で協力して子育てに取り組むべき時期でしたが、妻が育児に専念してくれ、私の仕事と学業の両立を全面的にサポートしてくれました。そのときのことは、いまでもとても感謝しています。
国立キャンパスの兼松講堂で行われた大学院の卒業式には、私の戦友でもあり、2年間苦楽を共にした妻と一緒に参加しましたが、彼女も大変喜んでくれました。また他のクラスメイトのなかには奥様だけでなく、小さなお子さんを連れてきた方も何人かいました。学部の卒業式と違い、多くの修了生が自分の親以外のご家族を呼んでいて、私だけでなくみんな家族のサポートがあってここまでできたのだと改めて実感しました。

FSでの2年間で得られたものとは?

信頼できるネットワークの構築

FSに通ったことで、ほかのクラスメイトを通じて信頼できる人的ネットワークを構築できたことが非常に大きかったと思います。そのネットワークは、次の2つのことに生かされています。
1つは、公私にわたりクラスメイトとの結びつきが強くなりました。特に仕事では、FSのクラスメイトにファンドマネージャーなど株式や債券の運用に携わる人が多かったので、投資家サイドのものの見方を知ることができたことが今の仕事に非常に役立っています。
そしてもう1つは、FSで論文作成の際にご紹介頂いたVCやベンチャー企業の人と、いまでは業務上の付き合いもできるようになりました。
私が現在の部署に移ったのは2012年6月。上場推進部の仕事は、主にIPOを目指す会社に対してプロモーションを行うことです。FSに行く前であれば「上場前」の上場制度や上場審査の話しかできかったのですが、これに加えて「上場後」のマーケットの動向の話ができるようになったことが非常に大きかったです。例えば上場会社をアナリストや機関投資家はどんな目線で見ているか。証券市場でどのように評価するか、など。こうしたものの見方は、FSに来なければ得られませんでした。
また、野間先生はゼミのOB・OGとの懇親会などを積極的に企画して下さり、入学年次が異なる人とお会いする機会も数多く提供してくださいました。同学年の横のネットワークに加えて、入学年次が違う縦のネットワークを構築できたことも、現在の業務におおいに役立っています。

FS金融戦略・経営財務プログラムを志す方にメッセージをお願いします。

本当の意味での人とのつながり

社会人が大学院に通うメリットの1つは、本当の意味での「人とのつながり」を得られることだと思います。
その中でもFSで私が一緒に勉強した40人は、私と同世代が多く、今、それぞれが第一線で活躍し、さらに数人が修了後に海外で活躍しています。そういった意味ではFSは本当に素晴らしい方々が集まる場所であり、その仲間たちが国内外を問わず幅広い分野で活躍する姿に常に刺激を受けられることが、FSの一番のメリットだと思います。
またさまざまな分野の方の考え方に触れたり、腹を割って話したりすることで、自分の仕事をいろいろな角度から客観的に見られるようになると思います。
社会人が大学を卒業して、誰かとともに勉強する機会はなかなかありませんし、学びの中で共感を得られる機会もありません。そうした共感やつながりを得られるチャンスにあふれていることが、社会人が大学院へ行く意義だと感じました。

※本記事の内容、肩書き等は2014年10月当時のものです。

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