修了生の活躍

修了生がビジネススクールの価値を高める―「知識」と「ネットワーク」の創造

キーストーン・パートナース

代表取締役

堤 智章さん

2007年9月修了

堤氏は三菱東京UFJ銀行でプロジェクトファイナンスや証券化などに携わっていた2005年にICSに入学。佐山・野間ゼミでメザニンファイナンスの修士論文を書いた。修了後、2009年に企業再生ファンドのキーストーン・パートナースを設立。2014年に寄附講義を設置し、物心両面でFSを支援している。

理論と実践をすり合わせる場

tsutsumi02.jpg 私がFSを志したきっかけは、銀行の業務の中ではファイナンス理論や数理について体系的に学べる機会がなく、外で学びたいと考えたことです。FSには各界を代表する講師陣がいて、私が知りたい最先端のファイナンス理論を教えていただける。実務のトップで活躍する人が教鞭を執り、最先端の理論と実践の両方を勉強できるのが素晴らしいところです。例えばバイアウトファンドについて、実際にファンドを立ち上げた当事者が授業を行う。このような場は非常に画期的でした。

野間 我々にとっても、ビジネスの現場で働く学生から刺激をもらえるのはFSで教鞭を執る醍醐味です。コーポレートファイナンスはアメリカの金融システム・企業システムを前提として理論構築された学問なので、アメリカの理論をそのまま教えても日本のビジネスマンには響かないことがある。堤さんのような実務の最前線で働く人と議論することで、アメリカ発の理論と日本の実践をどうすり合わせればいいかが見えてきます。

実務に応用できる論文のテーマ

noma.jpg野間 FSのプログラムの特徴は、修士論文を書かなければ修了できないこと。堤さんの論文は、メザニンファイナンス(ローンや社債などのデットファイナンスと、普通株式によるエクイティファイナンスの中間に位置する資金調達手法)に関するものでした。

 実際のファイナンスの現場に応用できるテーマを選びました。メザニンファイナンスを行えば本当に銀行の与信が拡大するのかどうか、実際のモデルを使って計量的に分析を行いました。論文の執筆は佐山先生と野間先生に指導していただきました。
大学院での1年目は非常にたいへんでした。当時は夕方6時半から9時半まで授業を受けて、終わったら銀行に戻って仕事をし、家に帰るのは12時。そこから宿題を1~2時間やり、寝るのは毎日3時くらいでした。2年目はほぼゼミだけでしたので、1年目ほどは苦労しませんでした。

野間 堤さんは当時、銀行で最年少で本部次長に抜擢されていました。修了後に堤さんから、ここで学んだことの一端を銀行の同僚にも教えてほしいというオファーをいただき、銀行の研修に講師として行きました。

 MBAに通えない銀行員に対し、MBAのエッセンスを短期間で学べる特別講座を設けましょうということで、コーポレートファイナンスに関する講義を野間先生にお願いしました。銀行といえども、常に最新のマーケット情報に触れているわけではありません。銀行員の実務経験に、最先端のアカデミックな理論が重なると、銀行員にとっては実のある知識が身につくのではないかと思います。

野間 メガバンクにとっても、資本市場における企業価値評価やコーポレートファイナンスについて、まだまだ能力を磨く余地があります。実際に金融機関で働く多くのの方が、投資する際のバリュエーション(価値評価)や、投資後にどうバリューアップするかについて本コースで学んでいます。あるいは、企業がいかにM&Aを進めるか、企業価値を向上させるかという観点で、コーポレートファイナンスを学ぶ事業会社の方もいます。

学生のビジネスに教員が参画

tsutsumi03.jpg ビジネスの実務に接するという意味では、ほかの学生からもおおいに刺激を受けました。特にゼミは年齢、業種、研究テーマが異なるいろいろな学生の考え方に触れられる貴重な機会でした。どちらの意識が高いということではなく、異質なものに触れること自体がお互いの成長を促してくれました。

野間 FSには堤さんのようなバンカーもいれば投資家、ベンチャーキャピタリスト、事業会社のCFOもいる。日本の金融市場の縮図といえます。同じテーマでも意見の違いが鮮明になり、そこから学べることは実践的かつ有意義です。

 大学の先生と学生が師弟関係のまま一緒にビジネスをすることは、普通の大学ではほとんどありません。独立後の2009年にファンドを立ち上げた際に、野間先生に投資委員会に入っていただきました。修了後もビジネス面で先生にサポートをいただけるのはFSならではだと思います。

野間 教員にとっても多くのことを学べる貴重な機会です。堤さんが手がけていた投資案件には日本初のスキームもあり、その背景や詳細を実践に近い立場で知ることは、研究・教育へのフィードバック効果があります。
ファンドを立ち上げ、運営する中で、FSで学んだことがどのような場面で役に立っていますか。

 銀行の人間として「投資家の論理」を学べたことは大きいと思います。ファンドが投資家を募集するときには厳密な論理が求められます。例えばCAPM(資本資産価格モデル)の理論を知らずに投資の話はできません。銀行の軸は融資であり、融資は確定した債権を得る権利のこと。一方、投資とは無限の利益を得る権利のことであり、性質が全く異なるものです。このギャップは、銀行で仕事をしている人にはなかなか埋められないと思います。

世界最高峰の大学院を目指す

野間 堤さんのファンドではFSの卒業生が2名、就職先としてもお世話になっています。

 私が2014年に寄附講義を設けたのは、FSで得たネットワークをお返しするためでもあります。アメリカのハーバード大学にはMBAのサークルがあり、修了生同士で金融の最先端の情報を共有し、そのネットワークは金融界に大きな影響を及ぼしています。私もFSの修了生として、現場で学んだ新たな知識と人脈を後輩に提供し、FSのネットワークを大きく、強くしていきたい。ゆくゆくはハーバード大学を超えるような、世界最高峰の大学院にしたい。

野間 ビジネススクールの価値は、修了生の活躍によって決まります。FSには、講演会や懇親会により修了生がネットワークを深めるための「ファイナンスクラブ」があり、産業界のリーダー育成に貢献しています。金融の世界はスモールワールドですが、修了生が1つのプロジェクトに異なる立場から携わることもあります。あるM&Aの案件では買い手と売り手、それぞれのアドバイザーの4者のうち、3者がFSの修了生でした。現場の最前線で活躍する修了生と教員とが協力して、FSの価値をさらに高めていこうと考えています。

※本記事の内容、肩書き等は2014年10月当時のものです。