2021年07月05日

プレスリリース メディア掲載

伊藤教授の共著論文が、Journal of Behavioral and Experimental Financeに掲載されました。

 伊藤彰敏教授が、大阪市立大学大学院経営学研究科 宮川 壽夫教授、同志社大学大学院ビジス研究科 野瀬 義明准教授と共同執筆した論文「How do firms attract the attention of individual investors? Shareholder perks and financial visibility」が、Journal of Behavioral and Experimental Financeに掲載されました。Journal of Behavioral and Experimental Financeからは本論文のサマリーをダウンロードすることができます。

<掲載誌情報>

【雑誌名】 Journal of Behavioral and Experimental Finance
【論文名】「How do firms attract the attention of individual investors? Shareholder perks and financial visibility」
【著 者】Yoshiaki Nose, Hisao Miyagawa, Akitoshi Itoh

  ※この論文に関するプレスリリース文はこちら


<本研究のポイント>

◇株主優待が投資家の認知度を高め、企業の株主基盤を長期的に拡大するという効果を実証
◇株主基盤拡大における極めて重要なマーケティング対象である個人投資家の認知度に注目

<概要>

 大阪市立大学大学院経営学研究科 宮川 壽夫(みやがわ ひさお)教授、同志社大学大学院ビジネス研究科 野瀬 義明(のせ よしあき)准教授、一橋大学大学院経営管理研究科 伊藤 彰敏(いとう あきとし)教授らの研究グループは、日本企業が行う株主優待に注目し、株主優待が個人投資家の認知度を高める効果があるというメカニズムを解明しました。上場企業が、円滑な資金調達を行うために株式市場における存在感を投資家に示すことは常に重要な課題とされており、多くの研究は生損保や投資顧問会社などの機関投資家による認知度のみに焦点を当ててきました。
 しかし、本研究では、日本企業において個人投資家層も株主基盤拡大における極めて重要なマーケティング対象であることに注目し、株主優待制度が個人投資家からの認知度を高めるメカニズムを解明しました。
 本研究の成果は、6月18日、『Journal of Behavioral and Experimental Finance』にオンライン掲載されました。 

 研究者からのコメント

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 コーポレートファイナンス理論の実証研究を専門としており、資本市場を舞台に行われる企業の意思決定や株主・投資家の行動メカニズムを解明することを目的に研究を行っています。

   

  

     

  

<研究の背景>

 近年、企業が行う株主優待制度が注目されるようになりました。株主優待制度は、企業が株主に対して、配当以外の何らかの特別なサービスを無償で行う制度です。その内容は自社製品や自社サービスの利用、物品、割引券、商品券などの他、最近では自社施設の見学や社会貢献など日本企業の株主優待の種類はますます多彩になっています。また、2021年3月末時点で株主優待制度を導入している上場企業は、実に40%近くに上るなど株主優待は一般的な制度となりました。おもしろいことに、株主優待制度の実施自体には法的な拘束がなく、制度の導入や内容については企業の裁量に任され、自由に行われています。
 もともと日本で始まったわが国特有の制度と考えられていましたが、最近は米国で映画館を経営する企業が株主に無料ポップコーンを配るなどの株主優待制度を導入し、「ミーム株」現象の一端を担うということが大きな話題となりました。株主優待制度はもはや世界的な注目を集めるに至っています。株主優待が個人投資家にとって株式を購入する動機付けにもなっているとの観測もあり、書店には株主優待に関する情報誌まで並んでいます。
 このように株主優待がほぼ社会現象化している中、宮川教授らの研究は「なぜ企業は株主優待を行うのか?」という原理的な問いから始まりました。今回の研究は、株主優待が投資家の認知度を高め、企業の株主基盤を長期的に拡大するという効果を実証したものです。

<研究内容>

 これまで、特に欧米の株式市場では上場企業がどのようにして投資家からの認知度(financial visibility)を高めるかというメカニズムについて研究が行われてきました。上場企業にとって株式市場における存在感を投資家に示すことは、円滑な資金調達を行うために常に重要な課題となります。
 多くの研究は生損保や投資顧問会社などの機関投資家による認知度のみに焦点を当ててきましたが、本研究チームは日本企業が行う株主優待に注目し、株主優待が個人投資家の認知度を高める効果があるというメカニズムの解明に成功しました。日本企業にとって個人投資家層は株主基盤拡大における極めて重要なマーケティング対象となっています。

本研究チームが実証したこと
●株主優待を実施している企業の株価は株主優待の権利付最終日に向けて注目度が高まり、有意に株価が上昇すること。
●空売り制約という現象が上昇傾向を助長すること。
●配当とは異なる株主優待の特殊な制度がその銘柄のクロス取引を誘発することによって
株式の売買高を高め、株主優待実施企業への市場からの注目度を向上させること。
 これらの現象が株主優待実施企業のみで毎年繰り返されることによって株主優待実施企業は長期的な株主基盤を拡大し、その結果として株式市場における認知度を高める効果があると推測されます。

<今後の展開>

 本研究グループの目的はあくまで資本市場における謎を解明することにあります。そのためのモチーフとして株主優待制度は非常に有効かつ興味深い研究対象と考えています。今後、本研究チームでは、コロナ禍の株価急落のように株式市場がクラッシュしたときに株主優待がどのような働きを行うかについて研究を進めて参ります。